ソフトバンク株式会社(9434)は2026年5月25日、ネオクラウド事業として、独自のソフトウエア「Infrinia AI Cloud OS」を搭載した「AIデータセンター GPUクラウド」を2026年10月に提供開始すると発表しました。NVIDIAの「GB200 NVL72」などのGPUを使い、日本国内で管理・運用される計算基盤で、AIモデルの開発から推論、データ処理までを利用できるクラウドサービスです。
AIの計算基盤を国内に持つことは、データを国外に出さずにAIを使いたい企業や公的機関にとって重要なテーマで、「ソブリンAI」とも呼ばれます。本記事では、ソフトバンクの公式発表で確認できる事実を時系列で整理し、このサービスが何を目指しているのか、投資家として見ておきたい数字とリスクは何かを解説します。
最初に注意:本記事で扱うのは、通信事業を営む「ソフトバンク株式会社(証券コード9434)」です。親会社の「ソフトバンクグループ株式会社(9984)」とは別の上場企業で、株価の値動きも事業の中身も異なります。
ソフトバンク「AIデータセンター GPUクラウド」とは|2026年10月提供開始予定の国内GPUクラウド
確認できた事実:2026年5月25日の発表によると、サービスの主な特徴は次のとおりです。
- 提供開始時期:2026年10月(発表時点の予定)。発表日からベータ版を展開し、ソフトバンクとグループ会社での利用を始めています。
- 使うGPU:「NVIDIA GB200 NVL72」をはじめとするNVIDIA Blackwell世代のGPU
- 2つの主な機能:複数の利用者が同じ基盤を安全に分け合って使えるKubernetes as a Service(KaaS)と、大規模言語モデル(LLM)の推論機能をAPIとして提供するInference as a Service(Inf-aaS)
- データの管理:日本国内での安全なデータ管理・運用
Kubernetes(クバネティス)は、多数のサーバーでアプリケーションを効率よく動かすための仕組みです。Inf-aaSは、利用者が自社開発のモデルや選んだAIモデルを指定するだけで推論の環境を使えるようにするもので、インフラの管理の手間を減らすことを狙っています。
なお、2026年10月4日時点で、提供開始そのものを知らせる正式な発表は本記事の調査では確認できていません。料金や提供規模(GPUの数)も、5月25日の発表には記載がありませんでした。
ソフトバンクのAI計算基盤はどこまで大きくなった?|発表で見る3年間の推移
GPUクラウドは、ソフトバンクが2023年から段階的に整備してきたAI計算基盤の上に成り立っています。

| 時期 | 内容 | 規模(発表時の表記) |
|---|---|---|
| 2023年9月 | NVIDIA Ampere GPUのDGX SuperPODを導入 | 2,000基超・0.7EFLOPS |
| 2024年10月 | NVIDIA Hopper GPUの計算基盤が稼働 | 4,000基超・4.0EFLOPS |
| 2025年7月 | DGX B200によるBlackwell GPUのDGX SuperPODを整備 | 4,000基超。計算基盤全体でGPU1万基超・合計13.7EFLOPS |
| 2025年12月 | 液冷のGB200 NVL72の計算基盤が稼働 | 1,224基で開始。将来4,000基超・10.6EFLOPS規模へ拡張予定 |
※EFLOPS(エクサフロップス)は1秒間に100京回の計算ができる能力を表す単位です。各発表の表記をそのまま掲載しており、計算の前提が異なる場合があるため、単純な比較には注意が必要です。
過去との比較:2023年9月の0.7EFLOPSから、2025年7月には合計13.7EFLOPSへと、2年足らずで発表上の計算能力は約20倍になりました。2024年5月には、経済安全保障推進法に基づく経済産業省の「クラウドプログラム」の供給確保計画の認定を受け、約1,500億円の設備投資に対して最大421億円の助成を受ける予定と発表しています。国内の計算基盤づくりは、国の政策とも結びついていることが分かります。
ソブリンAIとAI-RAN|通信会社がGPUクラウドを手がける理由
ソフトバンクは2026年3月2日、「Telco AI Cloud」構想を発表しました。大規模なAIデータセンターを使う「GPUクラウド」と、通信ネットワークの基地局側でAIの処理も行う「AI-RAN」、そしてそれらを管理する「Infrinia AI Cloud OS」を組み合わせ、「低遅延・高信頼でソブリン性(データ主権性)を備えた分散型のAIインフラ」を構築し、AIインフラプロバイダーへの進化を目指すとしています。
解釈:大規模なモデルの学習はデータセンターで集中して行い、応答の速さが求められる推論は利用者に近い通信網の拠点でも処理する、という役割分担を想定していると読み取れます。全国に通信網を持つ通信会社ならではの構想といえますが、AI-RANが収益として本格的に貢献する時期は、発表からは分かりません。
「ソブリンAI」とは、データや計算基盤を自国の管理下に置いてAIを活用する考え方です。機密性の高いデータを扱う企業や行政機関にとって、国内で管理される計算基盤の選択肢が増えることには意味がある一方、海外の大手クラウド事業者も日本国内にデータセンターを持っており、国内事業者だけが選択肢になるわけではありません。
安川電機とのフィジカルAI実証|GPUクラウドの使い道の具体例
確認できた事実:ソフトバンクと安川電機は2026年7月13日、「AIデータセンター GPUクラウド」をフィジカルAI(ロボットなど現実の世界で動くAI)の開発基盤として使い、柔らかい物体を扱うシステムの実証を行ったと発表しました。形や置き方が毎回変わるワイヤーハーネス(電線の束)を箱に収める作業で、ロボットが映像から状態を認識し、AIが学習してロボットに指示を出すことで、安定した作業ができることを確認したとしています。
この実証では、NVIDIAの「Omniverse」「Cosmos」(合成データの生成)や「Physical AI Factory Blueprint」も使われました。GPUクラウドが言語モデルだけでなく、製造業のロボット開発にも使われ得ることを示した例です。ただし、実証の段階であり、事業としての規模や収益への貢献は公表されていません。
NVIDIAとの関係|確認できる範囲で整理
公式発表で確認できるのは、ソフトバンクがNVIDIAのGPU(Ampere、Hopper、Blackwell世代)やネットワーク技術、ソフトウエアを採用して計算基盤を構築していること、5月25日の発表にNVIDIAの担当幹部のコメントが掲載されていること、安川電機との実証でNVIDIAと協力したことです。ソフトバンクは2026年4月に「NVIDIA Partner Network Award 2026」の「Best AI Factory Award」を受賞したとも発表しています。
一方で、本記事の調査では、NVIDIAとの資本関係や、GPUの調達価格・数量の契約内容は確認できませんでした。親会社のソフトバンクグループとNVIDIAの関係とは分けて考える必要があります。
業績の数字で見る位置づけ|クラウド・AI領域は年平均30%成長の見通し
確認できた事実:ソフトバンクの2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)の売上高は1兆8,147億円(前年同期比9%増)、営業利益は3,023億円(同4%増)でした。法人向けのエンタープライズ事業は前年同期比で11%増収、28%増益です。同社はクラウド・AI領域の売上高について、2025年度の2,558億円から2027年度まで年平均30%の成長を見込むとしています。
試算:2,558億円が2年間毎年30%成長すると、2027年度は単純計算で約4,300億円になります。それでも、全社の四半期売上高が約1.8兆円の規模であることを考えると、現時点でGPUクラウドを含むクラウド・AI領域が業績全体を左右するほどの大きさではない点は押さえておきたいところです。
株価の面では、ソフトバンク(9434)の10月2日の終値は237.4円で、8月末(237.1円)からほぼ横ばいでした(Yahoo Financeの日足終値)。
投資家が注意したいリスク
- 設備投資の負担:GPUは高額で、世代交代も速い設備です。投資の回収には高い稼働率が必要で、需要が想定を下回れば減価償却の負担が利益を圧迫する可能性があります。
- 競争:国内外の大手クラウド事業者や、ほかの国内GPUクラウド事業者との競争があります。価格競争になれば採算が下がるおそれがあります。
- 調達と電力:最新GPUの供給や、データセンターの電力・冷却の確保は業界全体の課題です。JERAとDellなどによる千葉のAIデータセンター構想を扱った千葉の400MW AIデータセンター構想の解説でも、電力が大きな論点になっています。
- 情報の不足:料金、顧客数、GPUクラウド単体の売上は公表されていません。期待だけで評価しないよう、決算資料での開示を待つ姿勢が必要です。
AIサーバーやメモリの需要の動きは、デル・テクノロジーズの決算分析やマイクロンの決算分析も参考になります。
今後確認したいポイントと日程
- 「AIデータセンター GPUクラウド」の正式な提供開始の発表と、料金・提供規模の開示
- 2027年3月期第2四半期の決算発表で、エンタープライズ事業やクラウド・AI領域の伸びが続いているか(日程は同社IRカレンダーで確認)
- GB200 NVL72の計算基盤を4,000基超へ広げる計画の進み具合
- AI-RANやフィジカルAIの実証が、有料の商用サービスにつながるか
まとめ:国内GPUクラウドは「長期の育成テーマ」。数字の開示で確かめる
ソフトバンクは、2023年から段階的に整備してきたAI計算基盤の上に、Infrinia AI Cloud OSを載せた「AIデータセンター GPUクラウド」を2026年10月に提供開始する予定と発表しています。国内でデータを管理できる計算基盤は、ソブリンAIの観点から注目されるテーマです。一方で、料金や売上の規模はまだ開示されておらず、設備投資の負担や競争といったリスクもあります。
話題性の高いテーマほど、会社が公表した事実と、市場の期待を分けて考えることが大切です。本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。記載している内容は2026年10月4日時点で確認したソフトバンク株式会社の公表資料に基づいています。
参考資料
- ソフトバンク「ネオクラウド事業として、『Infrinia AI Cloud OS』を搭載した『AIデータセンター GPUクラウド』を2026年10月に提供開始」(2026年5月25日)
- ソフトバンク「Telco AI Cloud構想を発表」(2026年3月2日)
- ソフトバンク「Infrinia AI Cloud OS」を発表(2026年1月21日)
- ソフトバンクと安川電機、フィジカルAIの実証(2026年7月13日)
- 「NVIDIA GB200 NVL72」を搭載したAI計算基盤が稼働開始(2025年12月25日)
- 4,000基超の「NVIDIA Blackwell GPU」の整備が完了(2025年7月23日)
- 経済産業省による「クラウドプログラム」の供給確保計画の認定について(2024年5月10日)
- ソフトバンク「2027年3月期 第1四半期 決算説明会 要旨」