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決算発表の時期になると、「自社株買い」を発表する会社のニュースをよく見かけます。自社株買いは、会社が自分の会社の株式を買い取ることで、配当と並ぶ株主への還元策として注目されます。
結論:自社株買い(自己株式の取得)は、会社が株主から自社の株式を有償で買い取ることです。会社法では、取得する株式の数、交付する金銭等の総額、取得できる期間(1年以内)をあらかじめ決める必要があり、買い取りに使える金額は分配可能額の範囲内に限られます。EPS(1株当たり当期純利益)の計算では自己株式を除くため、利益が同じなら株式数が減った分だけEPSは上がります。例えば純利益100億円・株式数1億株の会社が1,000万株を買い取ると、EPSは100円から約111.11円になります。ただし、自社株買いで会社の利益そのものが増えるわけではなく、株価が上がるとも限りません。
この記事では、会社法と日本取引所グループ(JPX)の資料にもとづき、自社株買いの仕組み、取得の方法、EPS・ROEへの影響、投資家が確認したい点を解説します。
自社株買い(自己株式の取得)とは
JPXの用語集では、自己株式は「自社で保有する自社株式」と説明されています。会社が株主から自社の株式を買い取ることを、一般に「自社株買い」と呼びます。
- かつては原則禁止:旧商法では、会社の財産的基礎を危うくするおそれがあることなどから、自己株式の取得は原則として禁止されていました。
- 金庫株の解禁:平成13年の商法改正で、いわゆる金庫株が解禁され、会社が目的を定めずに自己株式を一定の制約のもとで取得したり、継続して保有したりできるようになりました。
- 重要な投資情報:自己株式の取得・処分の決定は、金融商品取引法でインサイダー取引規制上の重要事実とされ、東京証券取引所は上場会社に適時開示を要請しています。
JPXの用語集では、株主還元は会社が獲得した利益を株主に還元することとされ、その方法として配当や株式分割等が挙げられています。自社株買いは、配当のように株主全員に現金を配るのではなく、売りたい株主から株式を買い取る形をとる点が違います。
会社法で決めること
会社法第156条では、会社が株主との合意により自社の株式を有償で取得するには、あらかじめ株主総会の決議で次の事項を定めなければならないとしています。
| 決める事項 | 内容 |
|---|---|
| 取得する株式の数 | 種類株式発行会社は種類ごとの数 |
| 交付する金銭等 | 内容とその総額 |
| 取得できる期間 | 1年を超えることはできない |
市場での取引や公開買付けで取得する場合、取締役会設置会社は、取締役会の決議で定めることができる旨を定款で定められます(会社法第165条)。上場会社の自社株買いが株主総会ではなく取締役会の決議で決まることがあるのは、この仕組みによるものです。
使えるお金には上限がある
会社法第461条では、自己株式の取得により株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額は、効力を生ずる日の分配可能額を超えてはならないとしています。配当と同じく、会社が自由にいくらでも買えるわけではありません。
自社株買いの方法
上場会社の自社株買いには、主に次の方法があります。
- 市場での買い付け:取引所の通常の取引で、ほかの投資家と同じように株式を買います。
- ToSTNeT取引(自己株式立会外買付取引):JPXの用語集では、現物商品のToSTNeT取引は、単一銘柄取引、バスケット取引、終値取引及び自己株式立会外買付取引で構成されるとされています。通常の取引時間(立会)とは別の仕組みで買い付けます。
- 公開買付け(TOB):JPXの用語集では、買付価格や買付けの期間等を公告するなど、所要の要件のもとに、有価証券市場外で株券等を買い付ける行為とされています。会社が自社の株式を対象に行うこともあります。

買い取った株式はどうなる?
会社が買い取った株式は、自己株式として保有し続けることも、消却することもできます。会社法第178条では、会社は自己株式を消却でき、取締役会設置会社では消却する数の決定は取締役会の決議によるとされています。消却すると、その分だけ発行済株式数が減ります。
自社株買いでEPS・ROEはどう変わる?
自社株買いがよく「株主還元」と言われるのは、1株当たりの指標が変わるためです。数字は説明用の仮の例で、期首に自己株式を取得し、利益は変わらないと仮定しています。
| 項目 | 自社株買い前 | 自社株買い後 |
|---|---|---|
| 当期純利益 | 100億円 | 100億円 |
| 株式数(自己株式を除く) | 1億株 | 9,000万株 |
| EPS | 100円 | 約111.11円 |
| 自己資本 | 1,000億円 | 900億円 |
| ROE | 10% | 約11.11% |
株価1,000円で1,000万株(100億円分)を買い取った例です。計算を簡単にするため、ROEは期末の自己資本で割っています。
EPSが上がる理由
企業会計基準委員会(ASBJ)の企業会計基準第2号では、EPSの計算に使う期中平均株式数は、普通株式の期中平均発行済株式数から期中平均自己株式数を控除して算定するとしています。会社が保有する自己株式は数えないため、消却していなくても、自社株買いでEPSの分母は小さくなります。
- 買い取り前:100億円÷1億株=100円
- 買い取り後:100億円÷9,000万株=約111.11円
実際の決算では、期中に少しずつ買い取るため、平均株式数の減り方はこの例より小さくなります。EPSの計算方法はEPSの記事で詳しく解説しています。
ROEが上がる理由
JPXの用語集では、ROE(自己資本当期純利益率)は、当期純利益を前期及び当期の自己資本の平均値で除したものとされています。自社株買いでは会社のお金が株主に渡るため、自己資本が減ります。利益が同じなら、分母が小さくなってROEは上がります。
- 買い取り前:100億円÷1,000億円×100=10%
- 買い取り後:100億円÷900億円×100=約11.11%
この例では、株価1,000円のままならPER(株価÷EPS)は10倍から約9倍に下がります。ROEとPERの見方はROEの記事とPER・PBRの記事をご覧ください。

自社株買いのニュースを見るときの注意点
- 利益が増えるわけではない:EPSやROEが上がるのは、株式数や自己資本が減るためです。会社が稼ぐ利益そのものは増えていません。
- 株価が上がるとは限らない:1株当たりの数字が良くなっても、株価は業績や市場全体の動きなどさまざまな要因で決まります。発表後に株価が下がることもあります。
- 手元のお金は減る:買い取りにはお金を使うため、その分だけ会社の現預金や自己資本は減ります。成長のための投資や財務の安全性とのバランスも確認しましょう。
- 保有か消却か:買い取った自己株式を保有したままにするか、消却するかで、発行済株式数の扱いが変わります。会社の開示で方針を確認しましょう。
- 配当とあわせて見る:自社株買いと配当はどちらも株主還元の方法です。配当の見方は配当利回りの記事で解説しています。
自社株買いをする会社の株式を買うには、証券口座が必要です。口座の開き方は証券口座の開き方の記事で解説しています。
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よくある疑問
Q. 自社株買いと株式分割の違いは?
A. 自社株買いは会社がお金を払って株式を買い取るもので、株主の手元に残る株式数が減る方向に働きます。株式分割は1株を複数の株式に分けるもので、お金は動かず、株式数が増えます。株式分割の仕組みは株式分割の記事をご覧ください。
Q. 自社株買いを発表した株を持っていると、何か手続きが必要?
A. 市場で買い付ける方法なら、株主が手続きをする必要はありません。持ち続けるか売るかは、通常の取引と同じように自分で判断します。公開買付けの場合は、応募するかどうかを株主が選びます。
Q. 自社株買いの発表はどこで確認できる?
A. 東京証券取引所は、上場会社に自己株式の取得の決定について適時開示を要請しています。会社のIRページや適時開示の情報で確認できます。
まとめ:自社株買いは株式数を減らす株主還元、利益の中身も確認を
- 自社株買いは、会社が株主から自社の株式を買い取ることです。会社法では、取得する株式の数・金銭等の総額・1年以内の取得期間を定め、使える金額は分配可能額の範囲内です。
- 方法には、市場での買い付け、ToSTNeT取引(自己株式立会外買付取引)、公開買付けがあります。買い取った株式は保有も消却もできます。
- EPSの計算では自己株式を除くため、利益が同じならEPSは上がります。自己資本が減るため、ROEも上がります。
- ただし、利益そのものが増えるわけではなく、株価が上がるとも限りません。業績や財務の状況とあわせて確認することが大切です。
本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。計算例は説明用の仮の数字です。株式は価格が変動し、元本を割り込むことがあります。